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ざっくり把握! TRIPP TRAPP最高裁判決

最高裁判所第二小法廷 令和8年4月24日判決(令和7年(受)第356号)

弁護士 村上 友紀(弁護士法人HIRAKU)

  • 応用美術1に関する著作物2性の判断基準について最高裁が初めて判断を示した
  • 判断基準:「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合」には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作物として保護される
  • ノルウェー発のスタイリッシュな子ども用ハイチェア「TRIPP TRAPP」の著作物性を否定

判決全文(裁判所ウェブサイト)

1. 事案の概要と論点の把握

このコラムで取り上げる最高裁判決の事案は、ノルウェー発の子ども用ハイチェア「TRIPP TRAPP」を製造販売するストッケ社が、同じく子ども用ハイチェアを製造販売する被告に対し、被告製品はTRIPP TRAPPに似ており、ストッケ社の著作権等を侵害していると主張して、販売の差止めや損害賠償等を求めたというものです。

最高裁が判断を示したのは、TRIPP TRAPPは著作権法で保護されるような「著作物」なのかという点で、その判断の前提として、量産実用品が著作物として著作権法で保護されるのはどのような場合かということを述べています。

ストッケ社の「TRIPP TRAPP」

写真は知財高裁令和6年9月25日判決文より引用
写真は知財高裁令和6年9月25日判決文より引用

ノルウェー発の子ども用ハイチェア。

直線的な座面やL字型の脚が特徴的であり、日本でも高い人気を誇る(約66度の略L字型をして床面から立ち上がっている2本の脚があり、2本の脚の間に座面板と足置板が床面と平行に固定されるという特徴的な形状)。

日本国内においては昭和49年から販売されており、様々なカラー展開がある。

2. 最高裁の判断

量産実用品が著作物として保護されるかどうかについて、最高裁が立てた基準

量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるというべきである。

TRIPP TRAPPの著作物性の有無

本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。

3. ざっくり解説

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」という要件があるため、実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とする表現物、いわゆる応用美術が「著作物」として著作権法で保護されるのかどうかは、著作権法上に明文の定めがなく、従前からしばしば裁判でも争点となってきました。

そのようななか、今回の最高裁は、量産実用品について、全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合は著作物として保護されるという基準を示しました。

「観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合」とはどういう場合なのかということについては、判決文のなかにヒントがあります。

最高裁が言うには、

・量産実用品の形状等は、普通、実用目的に必要な機能との関係で一定の制約を受けて決定されるものであり、機能に由来する構成と別個にこれを把握することができない。

・それでも量産実用品のなかには、

パターン① 例えば、表面に単なる模様や表面加工の域を超える装飾が付加されているもののように、当該付加部分の形状等が、機能と関連せず、観念上、機能に由来する構成とは別個の絵画や彫刻として把握できるものがある。

 →量産実用品に「美術の著作物」が単純に付加されたものということができ、その付加部分に著作権法の保護が及ぶことは当然

パターン② 例えば、全体として彫刻等とも看取できるもののように、その全体又は部分における形状等が、当該実用品としての機能と関連してはいるものの、観念上、機能に由来する構成とは別個の彫刻等として把握できるものがある。

 →機能に由来する構成とは別個に思想又は感情の創作的な表現を把握できるなら著作権法の保護を及ぼすのが相当

ということです。椅子を想定すると、パターン①は、背面や座面にイラストが描かれていたり、彫刻がなされていたりすれば、そのイラストや彫刻が該当し、パターン②は、椅子としての脚や座面はありつつも、ただの椅子ではなく彫刻といえるほどの実用椅子が該当することになるのだろうと思われ、いずれも著作物として著作権法で保護されることになります。

4. 少し深掘り!

(1)これまでの知財高裁が示した判断基準

TRIPP TRAPPについては、今回の事件の前にも、別件の知財高裁平成27年4月14日判決のなかでその著作物性が判断されています。その際は、応用美術の著作物性の判断基準について、

応用美術は…表現態様も多様であるから、応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである

と述べています。つまり、他の表現物と同様に、個別具体的に作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとの判断基準を示して、TRIPP TRAPPに著作物性を認めました(もっとも、相手の製品はTRIPP TRAPPに類似しないから著作権侵害はないとの結論)。

なお、その頃の知財高裁は、応用美術の著作物性の判断基準が事案ごとに揺れていました。

今回最高裁判決が出たこの事案では、1審の東京地裁も2審の知財高裁も、TRIPP TRAPPは著作物とは認められないとして、ストッケ社の請求を棄却しましたが、実用品の著作物性の判断基準について、2審の知財高裁令和6年9月25日判決では、

実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である

という基準を立てていました。

ここで出てくる「美的鑑賞」という語は、今回の最高裁の判断基準には含まれていないのですが、最高裁の補足意見によると、「美的鑑賞」の語からはあたかも高度な創作性や芸術性が必要であるかのような誤解が生じかねず、また、そもそも美的な芸術としての鑑賞に値するか否かを裁判所が判断するのは不適当と思われるから、ということです。

(2)最高裁の判断理由

最高裁は、上記のように、量産実用品は、全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができる場合は著作物として保護されると判断しましたが、その理由について、2つの視点を述べています。

まず、量産実用品のデザインについては、意匠法による保護との関係を無視することができません。

今回の最高裁判決も意匠法との関係に言及しています。一方で、視覚を通じて美感を起こさせる量産実用品の形状等を保護する意匠法が存在し、量産実用品の形状等について、意匠登録出願をして所定の審査を経て設定の登録がされることで出願後25年間の意匠権を獲得します。これに対し、著作権法で保護されるとしたら登録手続なしに著作者の死後70年間の権利を獲得します。このような両者の違いから、最高裁は、もし量産実用品の形状等について広く著作権法の保護が及ぶとすると、誰もあえて費用を投じて意匠登録を受けなくなって、意匠法の存在意義を損なうおそれがあるという懸念を示しました。そういった懸念から、量産実用品については、その形状等が思想又は感情を創作的に表現したものであるということができれば直ちに美術の範囲に属するものとして著作物に当たる、との解釈を採ることは相当ではないとの考えを明らかにしています。

次に、上にも記したとおり、量産実用品の形状等は、通常、実用目的に必要な機能との関係で一定の制約を受けて決定されるものであり、機能に由来する構成と別個にこれを把握することができないものです。しかし、パターン①(表面に単なる模様や表面加工の域を超える装飾が付加されたもの)のような実用品は、形状等が機能と関連せず、機能に由来する構成とは別個の絵画や彫刻として把握できるものは単純に「美術の著作物」が実用品に付加されたものといえるから著作権法の保護が及ぶことは当然で、また、パターン②(全体として彫刻等とも看取できるもの)のような実用品は、その形状等は、機能に由来する構成とは別個に思想又は感情の創作的な表現を把握できるという点において、「美術の著作物」が単純に付加されたパターン①と同様であるということができます。最高裁は、このような場合であれば著作権法の保護を及ぼすのが相当である、との立場を明らかにしています。

最高裁はこれらを考慮して、上記の判断基準を定立しました。

(3)米国の基準

ところで、同様の問題に関しては、米国では2017年に連邦最高裁が次のような判断を示しています。

チアリーディングユニフォーム事件、Star Athletica, L.L.C. v. Varsity Brands Inc., 580 U.S. 405 (2017) において、実用品のデザイン(”design of a useful article”)に組み込まれた特徴が著作権保護の対象となるのは、

(1) その特徴が実用品とは別に二次元または三次元の芸術作品として認識され、

かつ

(2) その特徴が組み込まれた実用品とは別に想像した場合、それ自体で、あるいは他の有形の表現媒体に固定された状態で、保護対象となる絵画、グラフィック、彫刻作品として認められる場合に限る

という基準を定めました。

そのうえで、Varsity社のユニフォームの

・形状・カットは著作権で保護されない

・表面の2Dデザイン(線・色・シェブロン柄)は保護される

として、Star Athletica社はそのデザイン部分を模倣したと判断されています(Varsity社の勝訴)。

写真はいずれもVarsity社のユニフォームのデザイン。米国連邦最高裁判所ウェブサイトより引用
写真はいずれもVarsity社のユニフォームのデザイン。米国連邦最高裁判所ウェブサイトより引用

米国著作権法には、日本の著作権法とは異なり、応用美術について、明文の規定が置かれています。米国著作権法101条3で、有用物品のデザインにおける絵画的、図形的、または彫刻的特徴は、その物品の有用的側面とは別個に識別でき(separate-identification)、かつ独立して存在し得る(independent-existence)場合にのみ、美術作品として著作権保護の対象となると規定していることから、連邦最高裁は、この明文の規定を出発点として上記の基準を立てています。

今回の日本の最高裁が示した基準は、個人的にはこの米国最高裁の基準に近いものと考えていますが、日本の最高裁判決の補足意見でも、米国の判例法を含む諸外国の法令や実務には言及しつつ、法制度の相違等、あくまで前提が日本とは違うから、実用品のデザインの保護については、日本は独自に基準を立てましょうということを述べています。

(4)実務に活かす!

実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とする表現物は、いわゆる応用美術と呼ばれていますが、これが「美術の著作物」に該当し得るかは、日本の著作権法上、明文の規定が存在しません。そのようななか、今回の最高裁判決は、応用美術(のうち量産実用品)について最高裁が初めて判断基準を示したものです。

今回の最高裁は、量産実用品が、最高裁が示した上記の基準に当たらない場合に必ず著作物性が認められないとまでは言い切っていません。また、判決の補足意見でも言われているように、上記の基準は抽象的です。そのため、実務で問題になりそうな具体的な場面で、裁判所がこの基準をどう当てはめるのかを事前に正確に予測するのは簡単ではありません。結局のところ、今後の裁判例の積み重ねを待つ必要があります。椅子という実用品に限っても、彫刻かのような量産椅子は色々と販売されており、どのレベルであれば著作物性が認められるのか、今後も悩ましい場面があることに変わりはないでしょう。それでも、量産実用品の著作物性の判断基準をある程度明らかにし、TRIPP TRAPPをめぐる具体的な事案において著作物性を否定したこの最高裁判決は、今後の企業の商品企画や事業展開にとって非常に有用で意義のある判決です。

脚注

  1. 応用美術(applied art):専ら美的鑑賞を目的として創作される純粋美術(fine art)に対し、実用に供される物品であって美的鑑賞の対象ともなる表現物は応用美術と呼ばれる。一点ものの美術工芸品と量産実用品のデザインとが含まれる。美術工芸品については、著作権法2条2項で、著作権法で保護される「美術の著作物」に含むことが規定されている。 ↩︎
  2. 著作物:著作権法2条1項1号に「著作物」の定義が規定されている。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」 ↩︎
  3. 17 U. S. C. §101 : “Pictorial, graphic, and sculptural works” include two-dimensional and three-dimensional works of fine, graphic, and applied art, photographs, prints and art reproductions, maps, globes, charts, diagrams, models, and technical drawings, including architectural plans. Such works shall include works of artistic craftsmanship insofar as their form but not their mechanical or utilitarian aspects are concerned; the design of a useful article, as defined in this section, shall be considered a pictorial, graphic, or sculptural work only if, and only to the extent that, such design incorporates pictorial, graphic, or sculptural features that can be identified separately from, and are capable of existing independently of, the utilitarian aspects of the article. ↩︎