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「全国ぐっと!!餃子フェス」から「餃子フェス」部分を分離して観察することを否定し商標非類似とした事例――餃子フェス事件(商標・ブランド裁判例ライブラリー)

弁護士 溝上 武尊(弁護士法人HIRAKU)

【裁判例情報】

裁判所知財高裁
判決年月日令和8年6月30日
事件番号令和6年(ネ)第10013号
事件類型商標権侵害訴訟
争点商標の類否(結合商標)
結論侵害否定

  • 「全国ぐっと!!餃子フェス」について、「餃子フェス」は餃子を提供するイベントの名称として自他役務識別機能に乏しいことなどから、「餃子フェス」部分の分離観察が否定されました。
  • 「全国ぐっと!ラーメン祭り With 餃子フェス」における「餃子フェス」について、イベント名が上下二段の構成であること、「With」が他の記載と異なるサイズ及びフォントで記載されていること、ラーメン店舗と餃子店舗がほぼ同程度の重み付けで紹介されていることなどから、「餃子フェス」部分の分離観察が認められました。
  • 「餃子フェス」について、餃子を提供するイベントとの関係では、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様による使用ではないとして、商標法26条1項6号により商標権の効力が及ばないとされました。

判決全文(裁判所ウェブサイト)

1. 事案の概要

控訴人は、「餃子フェス/Gyoza Festival」との登録商標(本件商標)の商標権者です。

【本件商標】

本件商標の指定役務には、当初、餃子に関するイベントの企画・運営・開催や餃子を主とする飲食物の提供等が含まれていましたが、「餃子フェス」は「餃子に関する催し物」程度の意味合いを容易に認識させるとして、商標法3条1項3号に該当すると判断されました。他方、分割出願された飲食料品の小売等役務、映画・演芸等の興行の企画・運営等については登録が認められました。

被控訴人らは、餃子等を提供する「全国ぐっと!!餃子フェス」と題するイベントの各広告で被控訴人標章1及び2を使用し、また、ラーメン、餃子等を提供する「全国ぐっと!ラーメン祭り With 餃子フェス」ないし「全国ぐっと!ラーメン祭りWith 全国ぐっと!餃子フェス.」と題するイベントの各広告で被控訴人標章3及び4を使用しました。

【被控訴人標章1】

【被控訴人標章2】

【被控訴人標章3】

【被控訴人標章4】

控訴人(原告)は、これらの使用が本件商標に係る商標権(控訴人商標権)を侵害すると主張しましたが、原判決(東京地裁令和7年12月23日判決・令和7年(ワ)第70055号)において東京地裁は請求を棄却し、知財高裁も控訴を棄却しました。

2. 争点

本件の主な争点は、次のとおりです。

①「全国ぐっと!!餃子フェス」等の結合標章について、構成部分を分離して観察すべきか

②「全国ぐっと!ラーメン祭り With 餃子フェス」における「餃子フェス」は商標的使用に当たらず、商標権の効力が制限されるか

3. 判旨

(1)「全国ぐっと!!餃子フェス」における「餃子フェス」の分離観察

「全国ぐっと!!餃子フェス」(被控訴人標章1及び2)について、東京地裁は、餃子を提供するイベントの名称としては「餃子フェス」の自他役務識別機能が乏しいことや、「全国ぐっと!!餃子フェス」全体を容易に一息で読み上げることができることなどから、上下二段の場合と一行の場合のいずれを問わず、「全国ぐっと!!餃子フェス」は一連一体の標章として把握するのが相当だと判断しました。

知財高裁もこの判断を維持しましたが、感嘆符(「!!」の部分)は文を終結させる役割があるとの控訴人の主張については、下記引用のとおり、広辞苑等を根拠に文を終結させる場合の感嘆符の用法には当たらないことを指摘して、原判決の判示を補充しました。

しかし、感嘆符は、辞書に「感嘆や強調を表す符合。エクスクレメーション‐マーク。」(広辞苑第七版)、「感嘆文の終わりにつける『!』の符合。エクスクレメーション‐マーク。」(大辞林第四版)などとあり、このうち「感嘆」については、「①感心してほめたたえること。・・・②なげき悲しむこと。」(広辞苑第七版)、「①感心してほめること。・・・②なげき悲しむこと。」(大辞林第四版)と、「感嘆文」については「過度な程度や特殊な状態に感嘆や驚嘆を表す文。感動文。」(広辞苑第七版)、「⇒感動文」(大辞林第四版。ただし、同書において、「感動文」については、「文を性質・内容の面から分類したときの一。感動の意を表す文で、主語・述語の形式が整わず、感動の気持ちをそのまま表現する。西欧語では文末に感嘆符『!』を付ける。感嘆文。」と記載されている。)などと記載があるところ、「全国ぐっと」自体は直ちに感動等を表現する文とは言い難いことから、被控訴人標章1及び2に示された二つの感嘆符は、強調を表す符合として用いられているもので、その前の文を終結させるものとして用いられたものとは認められないというべきである。

また、知財高裁は、控訴審における控訴人の補充主張に対しても、下記引用のとおり、感嘆符を理由に分離観察が適当であるとはいえないとして、分離観察を認めず、その結果、「全国ぐっと!!餃子フェス」と本件商標は外観・称呼・観念のいずれも異なり、類似しないと判断しました。

二つの感嘆符は強調の意で用いられていて、必ずしも読中に息を止めるなどのことが想定されるとはいえず、被控訴人標章1及び2はいずれも一連一体のものであり、その一部を分離して観察するのが適当なものではない

(2)「全国ぐっと!ラーメン祭り With 餃子フェス」等の分離観察

「全国ぐっと!ラーメン祭り With 餃子フェス」等における「餃子フェス」(被控訴人標章3)又は「全国ぐっと!餃子フェス.」(被控訴人標章4)については、東京地裁は、イベント名全体が「全国ぐっと!ラーメン祭り」と「With 餃子フェス」又は「With 全国ぐっと!餃子フェス.」を上下二段に配した構成であること、「With」が他の記載と異なるサイズ及びフォントで記載されていること、ラーメン店舗と餃子店舗がほぼ同程度の重み付けで紹介されていることなどから、「全国ぐっと!ラーメン祭り」部分と「餃子フェス」「全国ぐっと!餃子フェス.」部分を分離して観察するのが相当だと判断しました。

知財高裁もこの判断を維持しましたが、更に「全国ぐっと!餃子フェス.」(被控訴人標章4)から「餃子フェス.」を分離できるかについては、東京地裁が指摘した「餃子フェス」の自他役務識別機能の乏しさに加え、「With」の次にまとまって表記されていることを理由として、「全国ぐっと!餃子フェス.」は一連一体の標章としてみるのが相当だと述べました。その結果、「全国ぐっと!餃子フェス.」と本件商標は外観・称呼・観念のいずれも異なり、類似しないと判断されました。

(3)「餃子フェス」の商標的使用該当性

「餃子フェス」(被控訴人標章3)について、東京地裁は、餃子を提供するイベントとの関係では「餃子フェス」は自他役務識別機能を欠く標章の使用であり、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていないとして、商標法26条1項6号により、その使用に控訴人商標権の効力は及ばないと判断しました。

知財高裁もこの判断を維持し、下記引用のとおり、原判決に若干の理由を補充するなどして(下線部が知財高裁による補正箇所)、控訴人商標権の効力は及ばないと述べました。

……様々な工夫を凝らして来場者に餃子を提供する催し物が「餃子フェス」、「餃子フェスティバル」のように称され開催されている実情があることなどから、餃子の提供を中心とするイベントの名称としては、「餃子フェス」と表記したとしても、それ自体は自他役務識別機能に乏しい。本件画像3を全体としてみれば、本件イベント2は餃子の提供を中心的な内容の一つとするイベントであり、被控訴人標章3は、自他役務識別機能を欠く標章の使用とみるのが相当である。同じく本件イベント2を紹介する本件画像4において、被控訴人標章3 部分が「全国ぐっと!」との記載を付加した被告標章4にされているのも、この点を考慮したことによるものと推察することも十分に可能である。 そうすると、本件イベント2に係る被控訴人標章3は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていないというべきであるから、原告商標権の効力は及ばない(法26条1項6号)。

4. 実務上のポイント

(1)分離観察の判断基準

結合商標について分離観察が許されるか否かについては、つつみのおひなっこや事件・最高裁平成20年9月8日判決が全体観察を原則としつつ「商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されない」と述べており、下級審裁判例もこの判断基準に従っています。

これに対し、本判決(及びこれが引用する原判決)は、上記最高裁判決等を引用しておらず、規範を立てずに分離観察の可否を検討しています。しかし、例えば「全国ぐっと!!餃子フェス」(被控訴人標章1及び2)については、「餃子フェス」部分の自他役務識別機能が乏しいことや全体を一息で読み上げることができる旨が指摘されており、実質的には、「餃子フェス」部分が強く支配的な印象を与えるものではないことを考慮したものと整理できます。

なお、本件では、控訴人がイベント名全体ではなく、その一部を被控訴人標章3及び4として特定しているため、裁判所は、まずイベント名全体から被控訴人標章3及び4部分を分離して観察できるかを検討し、その上で、分離された被控訴人標章について商標的使用又は本件商標との類否を判断しています。特に被控訴人標章4については、イベント名全体から「全国ぐっと!餃子フェス」部分を分離する一方、当該標章内部の「全国ぐっと!」と「餃子フェス」については分離観察を否定しており、二段階の分離観察の問題が生じている点に注意を要します。

(2)二段書きであることがどの程度考慮されるか

本判決は、「全国ぐっと!!餃子フェス」(被控訴人標章1及び2)については、「全国ぐっと!!」と「餃子フェス」が上下二段に配置されている場合であっても一連一体の標章として把握すべきだと述べました。他方、「全国ぐっと!ラーメン祭り With 餃子フェス」等における「餃子フェス」(被控訴人標章3)又は「全国ぐっと!餃子フェス.」(被控訴人標章4)については、「全国ぐっと!ラーメン祭り」と「With 餃子フェス」等が上下二段に配置されていることが分離観察を肯定する事情の一つとされています。分離観察の可否は諸事情の総合考慮であり、二段書きであることは本件でも決め手になっていません。

例えば「ベスリ会」事件・知財高裁令和6年4月9日判決においては、二段書きされている「ベスリ会」の文字部分と「東京TMSクリニック」の文字部分が「視覚上分離、独立して看取され得る」と評価され、分離観察を肯定する事情の一つとされています。他方、「STEAK HOUSE hama」事件・東京高裁平成13年12月18日判決では、「STEAK HOUSE」と「hama」が上下二段で文字の大きさも異なっていたものの、「hama」部分を独立して看取するとは認められないとして、分離観察が否定されました。このように、二段書きは各構成部分の視覚的独立性を基礎付ける事情となり得るものの、それのみで分離観察の可否が決まるものではありません。

(3)感嘆符と「With」の違い

感嘆符を含む標章については、広辞苑等の内容を詳細に引用しながら、強調を表すにすぎず両部分を分断するものではないと詳細に説示しました。他方、「全国ぐっと!ラーメン祭り With 餃子フェス」等の名称については、「With」が他の記載と異なる態様で表示されていることなどを指摘して分離観察を認めていますが、「With」という語が両部分の結合関係にどのような意味を持つのかについては特に説示していません。

これらの結論の相違は、標章全体の構成や意味内容の相違によるものと考えられるものの、いかなる事情が分離観察の可否を分けたのかは、判示から必ずしも明確ではありません。少なくとも、感嘆符であれば分離されない、「With」であれば分離される、といった一般化は難しいというべきでしょう。

(4)「餃子フェス」の商標的使用

本判決では、「餃子フェス」について、餃子の提供を中心とするイベントの名称としては自他役務識別機能に乏しいことから、イベントにおける使用は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様による使用ではないとして、商標法26条1項6号により商標権の効力が及ばないと判断されました。

この判断は、登録商標と類似する標章が使用されていても、その標章が具体的な使用場面においてイベントの内容を示すものとして用いられている場合には、商標権の効力が及ばないことがあることを示すものとして、実務上参考になります。

5. 関連裁判例・記事

つつみのおひなっこや事件・最高裁平成20年9月8日判決(結合商標の分離観察に関する最高裁判例)

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