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二段書き商標について上段の「IW波」「S.IW波」部分の分離観察を否定し商標非類似とした事例――IW波事件(商標・ブランド裁判例ライブラリー)

弁護士 溝上 武尊(弁護士法人HIRAKU)

【裁判例情報】

裁判所大阪地裁
判決年月日令和8年7月30日
事件番号令和7年(ワ)第10447号
事件類型商標権侵害訴訟
争点商標の類否(結合商標)、商標的使用
結論侵害否定
  • 「IW波」と「Inter Widened Wave」を上下二段に配置した登録商標について、上段が下段の略称であることなどを重視し、文字の大きさの違いにかかわらず、「IW波」部分の分離観察を否定しました。
  • 「S.IW波」と「Super.Inter Widened Wave」を上下二段に配置した登録商標についても、上段が下段の略称であることなどを重視し、「S.IW波」部分の分離観察を否定しました。
  • 被告による「IW波」の使用について、ウェブサイトにおいて「S.IW波」の特徴を説明する文脈で使用されていたことを踏まえ、被告商品との関係で商標的に使用されているとはいえないと判断しました。

判決全文(裁判所ウェブサイト)

1. 事案の概要

原告は、電子応用医療機器の開発・製造・販売等を行う会社であり、自ら開発した特殊な電気波形を「IW波(Inter Widened Wave)」と名付け、平成17年以降、この波形を出力する機能を備えた「セルキュア」シリーズ等の美顔器を販売していました。これらの取扱説明書等では、平成17年頃から「I.W.波」等の記載がありました。

そして、原告は、「IW波」の文字を上段に大きく、その下に「Inter Widened Wave」の文字を小さく配置した商標(原告商標1)と、「S.IW波」の文字を上段に大きく、その下に「Super.Inter Widened Wave」の文字を小さく配置した商標(原告商標2)について、商標権を有していました。

【原告商標1】

【原告商標2】

一方、被告は、令和5年5月に「MAGIC LIFT」との商品名を付した美顔器(被告商品)を販売し、被告商品に同梱されたパンフレット、簡単ガイド及び取扱説明書において、被告商品が発する波形を「S.IW波」(被告標章2)と表示していました。また、ウェブサイト(被告ウェブサイト)では、「IW波」(被告標章1)を用いて「IW波をさらに進化させた独自開発のS.IW波を採用」などと表示していました。他方、原告は、被告が被告商品の販売を開始して間もない令和5年8月9日、原告商標1及び同2に係る商標出願をし、原告商標1については同年12月13日に、原告商標2については令和6年5月2日にそれぞれ商標登録を受けました。

そこで、原告は、被告によるこれらの行為が原告の商標権を侵害するとして、被告ウェブサイトにおける被告標章1及び2の使用及び被告標章2を付した上記商品の譲渡等の差止め、被告ウェブサイト及び上記商品の取扱説明書等からの被告標章1及び2の表記の削除及び損賠賠償を求めました。

なお、本件には不正競争防止法上の主張もありますが、本稿では商標法上の主張に絞って紹介します。

2. 争点

① 原告商標と被告標章が類似するか

② 被告による「IW波」(被告標章1)の使用が商標的使用に当たるか

3. 判旨

(1)原告商標と被告標章の類否

裁判所は、結合商標の分離観察について、つつみのおひなっこや事件・最高裁平成20年9月8日判決を含む最高裁判例を引用し、商標の構成部分の一部を抽出し類否判断の基礎とすることは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないとの判断基準を示しました。

その上で、裁判所は、下記引用のとおり、原告商標1が「IW波」の文字を上段に大きく、その下に「Inter Widened Wave」の文字を小さく配置し、また、上段部分と下段部分との間には略称とその正式名称という関係があるという構成から、原告商標1の分離観察を認めませんでした。その結果、原告商標1と被告標章1は外観と称呼が相違し、被告標章1の「IW波」からは特定の観念も生じないとして、両商標は非類似であると判断されました。

これを本件についてみると、原告商標1は、……大きなフォントの「IW波」との文字(上段部分)と小さめのフォントの「Inter Widened Wave」(下段部分)の文字列の二段から成る結合商標であり、大きめのフォントで強調された上段部分の「IW波」が、下段部分の「Inter Widened Wave」の文字列のそれぞれの頭文字を取った略称となっている。このような構成に鑑みれば、原告商標1は、上段部分と下段部分の結びつきが強く、需要者に対しても一体のものとの印象を与えるから、原告商標1と被告標章1の類否を判断するに当たっては、二段併記された原告商標1を一連一体のものとして把握し、その構成部分全体を対比するのが相当である。

原告は、原告商標1のうち大きく目立っている「IW波」を分離観察すべきであると主張していましたが、裁判所は、下記引用のとおり、「IW波」には強い識別力がない一方、「Inter Widened Wave」が相応に強い識別力を有するとして、この主張を排斥しました。

しかし、「IW波」は、……ローマ字2字に「波」の漢字を組み合わせたものであり、それ自体に強い識別力が伴うものとはいえない一方、下段の「Inter Widened Wave」の文字列は、辞書に掲載されるなど一般的に認知されている波の名称等ではなく、相応に強い識別力を有するものといえるから、文字の大きさの違いを考慮しても、上段部分が需要者に対して出所識別標識として強く支配的な印象を与えるなどということはない上、……上段は下段の略称という関係性もあるのであるから、上段部分のみを分離して、商標の類否を判断することは許されない。

原告商標1と被告標章2の類否、原告商標2と被告標章2の類否についても、上記と同様の理由により分離観察を認めず、商標非類似と判断されました。

(2)「IW波」の商標的使用該当性

被告商品の取扱説明書、パンフレット及びウェブサイトでは、「MAGIC LIFT」が商品名として大きく表示される一方、「S.IW波」(被告標章2)は、「S.IW波モード」「独自開発のS.IW波」「MAGIC LIFTならではの波形」など、被告商品に採用された波形の名称として使用されていました。これに対し、「IW波」(被告標章1)は、被告ウェブサイトにおいて、「IW波をさらに進化させた独自開発のS.IW波を採用」「IW波をさらに奥まで浸透させる波形を実現」など、「S.IW波」の特徴を説明する文脈で使用されていました。

裁判所は、このような使用態様に照らせば、被告標章1は被告商品との関係で商標的に使用されているともいえないと判断しました。

4. 実務上のポイント

(1)二段書き商標の分離観察

裁判所は、文字の大小という外観上の事情だけではなく、上段部分が下段部分の略称となっているという両者の関係性を重視しました。

結合商標の分離観察においては、各構成部分が視覚的に区別できるかだけでなく、構成部分相互の意味上の結び付きも重要な判断要素となります。例えば「ベスリ会」事件・知財高裁令和6年4月9日判決において裁判所は、「ベスリ会」と「東京TMSクリニック」を二段書きした商標の分離観察を肯定するにあたり、両者に観念上の繋がりがないことを考慮しています。もっとも、上下の文字部分に意味上の関連性があれば、常に一体として観察されるわけではありません。例えば三橋の森の一升パン・知財高裁令和4年5月31日判決では、「一升パン」と「いっしょうパン」を上下二段に配置した商標について、下段は上段の読みを表したものにすぎないとして、上段の「一升パン」のみが対比の対象とされています。

したがって、二段書き商標の分離観察においては、各構成部分が視覚的に区別できるか、各部分の識別力に差があるかといった事情に加え、上下の文字部分について、読み仮名、略称と正式名称など、どのような関係にあるかという点も考慮する必要があります。

(2)商品の特徴を説明する記載と商標的使用

本判決では、被告による「IW波」の使用について、被告ウェブサイトにおいて「S.IW波」の特徴を説明する文脈で使用されていたことを踏まえ、被告商品との関係で商標的に使用されているとはいえないと判断しました(裁判所は商標の類否を否定したうえで、商標的使用についても補足的に判断しています)。

このように他人の商標を商品説明の中で使用する事案では、従前も商標的使用に当たらないとして商標権侵害が否定されることがありました。例えば「For brother」事件・東京地裁平成16年6月23日判決では、互換インクリボンに「For brother」「ブラザー用」などと表示した事案において、適合機種を示すための表示であると消費者に理解されるとして、商標的使用に当たらないと判断されました。

他人の商標を説明的に使用する場面に関する裁判例はまだ十分に蓄積されているとはいえず、本判決も商標的使用の否定例の一つとして参考になります。

5. 関連裁判例・記事

つつみのおひなっこや事件・最高裁平成20年9月8日判決(結合商標の基本判例)

餃子フェス事件・知財高裁令和8年6月30日判決(「全国ぐっと!!餃子フェス」から「餃子フェス」部分を分離して観察することを否定し商標非類似とした事例)

SORA事件・知財高裁令和8年4月13日判決(図形と「SORA」の文字からなる結合商標について「SORA」部分の分離観察を認めて商標類似とした事例)

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