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キャラクター図形と「リッキー」の文字からなる結合商標について文字部分の分離観察を認めて商標類似とした事例――リッキー事件(商標・ブランド裁判例ライブラリー)

弁護士 溝上 武尊(弁護士法人HIRAKU)

【裁判例情報】

裁判所知財高裁
判決年月日令和8年3月24日
事件番号令和7年(行ケ)第10102号
事件類型拒絶査定不服審判請求不成立審決に対する審決取消訴訟
争点商標の類否(結合商標)
結論拒絶査定維持
  • キャラクター図形と「リッキー」の文字からなる結合商標(引用商標)について、図形部分と文字部分がそれぞれ独立して出所識別標識として機能するとして、文字部分の分離観察が認められました。
  • 本願商標と引用商標の「リッキー」の文字部分は、外観が近似し、称呼が共通することなどから、本願商標と引用商標は類似すると判断されました。
  • 引用商標のキャラクター図形が広く知られていないことなどから、図形部分と「リッキー」の文字部分に称呼・観念上の関連性はないと判断されました。

判決全文(裁判所ウェブサイト)

1. 事案の概要

原告は、「リッキー」の文字を標準文字で表した商標(本願商標)について、第16類「メモ帳、シール、ペンシルケース、文房具類、定期刊行物、小冊子、印刷物」(拒絶査定不服審判における手続補正後のもの)を指定商品として商標登録出願をしました。これに対して、特許庁が拒絶査定をしたため、原告は、拒絶査定不服審判を請求しました。

当該審判において、特許庁は、擬人化した動物の図形とその下部に「リッキー」の文字を横書きした先行登録商標(引用商標)を引用したうえで、本願商標と引用商標は類似すると判断し、本願商標が商標法4条1項11号(先願に係る他人の登録商標)に該当するとして請求不成立の審決をしました。

そこで、原告がその取消しを求めて提訴しました。

【本願商標】

リッキー(標準文字)

【引用商標】

2. 主な争点

① 引用商標から「リッキー」部分を分離して観察することができるか

② 本願商標と引用商標は類似するか

3. 判旨

(1)「リッキー」部分の分離観察

裁判所は、結合商標の分離観察について、リラ宝塚事件、SEIKO EYE事件及びつつみのおひなっこや事件の最高裁判例を引用し、「その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されない」との判断基準を確認しました。

商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(最高裁昭和34年(オ)第856号同36年6月23日第二小法廷判決・民集15巻6号1689頁参照)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁〔リラ宝塚事件判決〕、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁〔SEIKO EYE事件判決〕、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁〔つつみのおひなっこや事件判決〕参照)。

その上で、裁判所は、本願商標について、「リッキー」の文字に相応して「リッキー」の称呼が生じるが、特段の観念が生じるものとは認められないとしました。

他方、引用商標については、後掲のとおり、

  • 図形部分と文字部分は、①図形と文字という異なる構成要素であること、②色彩も異なること、③重なり合うことなく、相当程度の間隔を空けて上下に独立して表されていることから、視覚上、明確に分離して看取できる
  • 文字部分から特定の観念は生じない
  • 図形部分についても、リスを擬人化したものと思わせるものの、一般に親しまれた特定の事物を表したものではなく、特定の称呼・観念が生じない
  • 図形部分と文字部分には観念上のつながりがない
  • その他、両者を常に一体のものとして把握しなければならない特段の事情もない

という理由から、図形部分と文字部分は分離観察が取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しておらず、それぞれ独立して出所識別標識の機能を有するものであり、文字部分を要部として抽出することも許されると判断しました。

引用商標は、ほほ袋を大きく膨らませ、大きな尻尾を持つなどリスの特徴を誇張し、服を着て蝶ネクタイをし、手に虫メガネを持つなど擬人化したリスを思わせる動物の図形(図形部分)と、その下部に「リッキー」の文字(文字部分)を横書きした構成からなるところ、その図形部分と文字部分は、図形と文字という構成要素を異にすることに加え、色彩も異にし、それぞれ重なり合うことなく、相当程度の間隔を空けて上下に独立して表されているものであることから、視覚上、明確に分離して看取し得るものである。文字部分を構成する「リッキー」の文字は、上記のとおり、一般的な辞書等に載録された成語ではなく,特定の意味合いを想起させる語として知られているというような証拠もないから、特定の観念を生じることがない造語として認識されるというのが相当である。

また、上記の構成からなる図形部分は、リスを擬人化したものと思わせはするものの、一般に親しまれた特定の事物を表したものとは認められず、これにつき特定の称呼や観念が生じるといった事情も見いだせないことから、図形部分と文字部分とは、観念上のつながりはない。その他、図形部分と文字部分とで、両者を常に一体のものとして把握しなければならない特段の事情も見いだせない。

そうすると、図形部分と文字部分は、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないというべきであるから、引用商標は、その構成中の図形部分と文字部分が、それぞれ独立して自他商品役務の出所識別標識の機能を有しているといえ、その構成中から文字部分を要部として抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるものである。

したがって、引用商標は、その構成中の「リッキー」の文字部分に相応して、「リッキー」の称呼を生じる。

上記のとおり、文字部分からは特定の観念を生じない。

他方、原告は、審決が「商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められない場合に係る基準」のみを検討している点が誤りであると主張していました。しかし、裁判所は、引用商標の図形部分と文字部分はそれぞれが出所識別標識として独立して機能し、分離観察が取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないから、独立した出所識別標識として相応に強い印象を与える「リッキー」の文字部分を分離観察することが許されるとして、原告の主張を排斥しました。

(2)商標の類否

本願商標と引用商標の要部である「リッキー」の文字部分とを比較すると、書体の違いはあるものの、いずれも「リッキー」の文字を共通にするため、外観上近似した印象を与えるとしたうえで、両者はいずれも「リッキー」の称呼を生じ、いずれも特定の観念を生じないため、観念については比較できないと述べました。以上から、裁判所は、本願商標と引用商標は互いに相紛れるおそれのある類似の商標であると判断しました。

(3)キャラクター図形+文字の結合商標の分離観察

原告は、「リッキー」が多くのキャラクターの名称として採用されていることや、キャラクター図形とその名称を併記した場合には両者が称呼上・観念上一体として認識されることから、引用商標の図形部分と文字部分を分離して観察することは許されないと主張しました。しかし、裁判所は、引用商標の図形部分はリスを擬人化したキャラクターとは認識できるものの、広く知られたものではなく、特定の称呼や観念は生じないうえ、「リッキー」の文字部分と称呼や観念における関連性はなく、当該キャラクター名称を表してなると直ちに認識、理解されることもないとして、原告の主張を排斥しました。

4. 実務上のポイント

(1)どのような場合に分離観察が認められるか

結合商標の分離観察の判断基準について、つつみのおひなっこや事件・最高裁平成20年9月8日判決では、①一部が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合と②他の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合には分離観察が認められるとの基準が示されました。もっとも、本判決は、この基準を確認しつつ、本件が①と②いずれの場合に該当するかを明示していません。

この点につき、リラ宝塚事件・最高裁昭和38年12月5日判決では、具体例を挙げることなく、「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標」は分離観察が許されると述べられています。前掲最高裁平成20年9月8日判決でも①②の場合「など」を除いて許されないとして、その他の例外があるようにも読める判示となっており、①②に限らず、不可分的結合といえなければ広く分離観察を認める立場もあります。

例えば「ありがとう」事件・知財高裁平成30年6月21日判決では、招き猫の図形と「ありがとう」の文字からなる結合商標について、図形部分と文字部分の双方がそれぞれ独立して出所識別機能を有する要部であるとして、「ありがとう」の文字部分を抽出して類否を判断しました。本判決も各構成部分の独立した出所識別機能を認めたうえで、その一部を要部として抽出しており、同様の判断枠組みを採ったものといえます。

しかし、前掲最高裁昭和38年12月5日判決が「商標はその構成部分全体によつて他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されない」と述べるように、商標の類否判断においては全体観察が原則です。それを前提に、前掲最高裁平成20年9月8日判決で分離観察が認められる場合が明確化されたと理解すれば、分離観察が許されるのは、上記①②のように、AとBからなる結合商標で、一方が他方よりも出所識別標識として強く認識される場合(A>B又はA<Bの場合)に限られ、本件のように、それぞれが独立して出所識別標識として機能する場合(A=Bの場合)には分離観察は許されないと考えることもできるでしょう。

なお、VENTURE事件・知財高裁令和5年11月30日判決では、上記①②に続く第三の類型として、「商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合」が挙げられています。この判断枠組みは、①②以外で分離観察を認める場合を具体化したものとして、本判決を理解するうえでも参考になります。

(2)キャラクターの知名度を考慮すべきか

本判決では、引用商標の図形部分のキャラクターが広く知られていないことを理由に、「リッキー」の文字部分と称呼や観念における関連性がないと述べています。前掲知財高裁平成30年6月21日判決においても、招き猫の図形部分と「ありがとう」の語とが観念的に密接な関連性を有しているとは考え難いとされています。しかし、「ありがとう」と異なり、本件の「リッキー」は、人物の愛称にもよく用いられる言葉であり、特段の事情がない限り、図形部分のキャラクターの名称だと受け取る需要者が多いのではないかと思われます。分離観察の可否にあたりキャラクターの知名度を考慮すれば、無名のキャラクターであるほど文字部分が分離され、後願排除効が強くなることになるため、その妥当性については意見が分かれるでしょう。

5.  関連裁判例・記事

リラ宝塚事件・最高裁昭和38年12月5日判決(結合商標の基本判例)

つつみのおひなっこや事件・最高裁平成20年9月8日判決(結合商標の基本判例)

SORA事件・知財高裁令和8年4月13日判決(図形と「SORA」の文字からなる結合商標について「SORA」部分の分離観察を認めて商標類似とした事例)

餃子フェス事件・知財高裁令和8年6月30日判決(「全国ぐっと!!餃子フェス」から「餃子フェス」部分を分離して観察することを否定し商標非類似とした事例)

IW波事件・大阪地裁令和8年7月30日判決(二段書き商標について上段の「IW波」「S.IW波」部分の分離観察を否定し商標非類似とした事例)

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